【労務管理】第2回(2回連載)陥りがちな労働条件通知の間違いを直す!~労働条件の明示義務とその方法~

 GAPの取組みは、一言で説明できないほど多くの取組みが入っています。そこで、GAP・ITサポートでは2024年より各分野の専門家の方々とコラボして、コラム連載と無料セミナーを企画することにいたしました。第2回の企画は「労務管理」です。「農業労働者の雇入の際の留意点 ~労働条件の明示義務とその方法~」と題して、ノボル社会保険労務士・行政書士事務所の代表 大滝昇様に、2回の連載コラムと2024年7月に無料セミナーを企画しています。


執筆者・講師:大滝昇
ノボル社会保険労務士・行政書士事務所  代表

北海道在住の社会保険労務士及び行政書士。大学卒業後、流通業、商工会議所、大手の社会保険労務士事務所、地元自治体で勤務後、開業。農業以外に労務管理が少し難しいと言われている「運送事業」「障害者の就労支援事業」「外国人の雇用:技能実習生等」の分野の業務の問合せが多く、北海道内の全域を中心に仕事をしています。
申請取次行政書士、日本政策金融公庫農業経営アドバイザー、GAP(JGAP畜産、ASIANGAP青果物)指導員

はじめに

 前回は、労働条件通知書の概要について説明しました。今回は、引き続き労働条件通知書に関して、次の点を説明します。
1 労働基準法第15条で定めている記載項目の変更(追加)について
2 「労働基準法第15条(書面交付義務)」と「GAPの管理点3.3「労働契約の提示」」

労働基準法第15条で定めている記載項目の変更(追加)について

 今年4月より労働基準法の(施行規則及びガイドラインの)変更により、労働条件通知書に加わった明示しなければならない3項目は、厚生労働省のHPにあがっているモデル労働条件通知書の1ページ目の上部にあります。下記の通りで変更追加の個所は網掛けの太字の部分です。3項目について上から順に説明をします。

  →厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法関係主要様式)

1 契約期間 
 新たに労働者を雇うが契約期間を定めていない場合は「期間の定めなし」だけで十分で、その欄の「※以下は、~」の記載は残さずにすべて削除してかまいません。以下の(1)及び(2)は、有期契約の労働者との労働条件通知書の場合です。

(1)更新上限の有無(無・有(更新  回まで/通算契約期間  年まで) 
 平成15年の法改正にて「1 契約の更新の有無:その契約は一回だけなのか、それとも続くのか」及び「2 契約の更新は次により判断する:更新が有ならばその判断基準」が記載事項の追加となりました。これにより当該労働者がいつまでその経営体で働けるのかがある程度わかることとなりました。
今回の変更は、さらに踏み込んだ内容です。網掛の太字の「3」の部分です。更新があるならばその契約回数の上限の記載が経営体の義務となりました。更新の回数がわかると、その経営体で最長何年何か月まで、労働者は働くことができるのかを明確にしたものです。
 そもそも、経営体が労働者と有期にて契約とするのは「今だけ労働力が必要である、その後は雇用の継続が確約できない」という経営体の経営上導かれたものです。雇用継続の決定権はどちらかというと経営体にあるといっていいでしょう。一方、有期の労働者は契約の更新が複数回続き特に明示がないならば有期といえども「無期で雇用されるだろう」と希望的に考えがちです。前回のコラムでは、雇用の入り口(入社の契約時)にて、労使で内容の不一致が問題と説明しましたが、それは雇用の出口(退職)までも続くものです。その点を今回の法改正で、雇用の終了にも明確な明示の義務を、最初の契約時に経営体に課したことになります。経営体にすると「延長して働いてもらう」または「期間の終了をもって退職してもらう」の決断が必要になります。一方、労働者は、契約満了をもって経営体を退職することが明らかならば、その満了時前から次の就職先を探すことが可能となり、円満な退職が図られると思います。
 なお、仮に1年契約で2回更新し通算3年雇うと契約であっても、経営体として経営上、雇用の継続が困難な場合は、労働者に対し納得のある説明をして、更新回数を少なくすることも可能です。

(2)無期転換申込の機会及び無期転換後の労働条件の明示
【労働契約法に定める同一の企業との間での通算契約期間が5年超える有期労働契約の締結の場合】
 平成23年の労働契約法(労使の労働契約についての基準を示す法律)の改正で「無期転換ルール」が定められました。「無期転換ルール」とは、契約を連続更新して原則5年経つと、労働者から次の契約期間中に経営体に対し今契約終了後の次の更新から無期契約の申出ができるというものです。経営体はその申し込みを拒むことはできません。5年続けて働くということは、実態として「『無期契約』と同様でないでしょうか」という考えです。今回の追加個所は、有期契約で更新が続き5年を超える雇用期間となった労働者だけが対象です。
 このルールを労使とも知らない人が多く、特に労働者は、権利を行使せず退職される場合もあり、更新が続き5年を超える期間となる契約書には、このルールについて明示しなければなりなくなりました。加えて、労働者が申し込みをして無期契約となった場合には、契約期間以外の労働条件についての変更の有無の記載も必要となりました。

「無期雇用と有期雇用」、「正規雇用と非正規雇用」の違い
 労働者から見ると、無期契約は、原則、特別な退職の特別な事情がなければ、定年まで働くことができ、安定した生活が保障されます。有期雇用は契約満了後、生活の糧がなくなるので、一般的には求職活動をすることになります。一方、経営体から見ると、無期契約の場合は、会社の相当の事情があり労基法上の手続を取らないと退職(いわゆる解雇)を求められない、有期契約の場合は、会社の経営的な事情で退職を求めたい場合は、契約期間の満了にて自動的に雇用関係は終了します。
 以下の表は「無期雇用」「有期雇用」の区分を示したものです。

フルタイマー(8時間労働)6時間以下
無期正規雇用の労働者
※例・新卒で経営の中心・主力で働く
パートタイマー 
※例 スーパーのレジ等で長期間働いている方
有期契約社員又はアルバイト 
例 夏休みの学生アルバイト
アルバイトでパートタイマー

 上記を見て7時間はどちらかと思うかもしれませんが、経営体毎に所定労働時間が違います。7時間前後の所定労働時間の経営体では正規雇用の労働者になります。区分けの一応の数値です。「正規雇用の労働者」以外が「非正規雇用」となります。

2 就業の場所 (雇入れ直後)及び(変更の範囲)
 今までは、入社時の就業場所だけの記載でよく、その後の将来の就業場所については、必要がありませんでした。今回の変更では、(変更の範囲として)考えられる将来の就業場所等の記載も必要とされました。(雇入れ直後)及び(変更の範囲)は対で記載をします。この記載にて労働者からの「転勤があるなら当経営体をそもそも入社しなかった」などの主張は少なると思われます。

3 従事すべき業務の内容 (雇入れ直後)及び(変更の範囲)
 上記「2」と同様で、入社時の業務だけでなく、その後の将来の業務についても、記載が必要となりました。(雇入れ直後)及び(変更の範囲)は対で記載をします。

上記「2」と「3」の共通項目
 「有期契約労働者」「無期契約労働者」が対象、つまり、労働者全員となります。一般企業でいう「異動」についての記載が義務となったわけです。業務と就業場所は密接な関係が一般的で、業務が変わると就業場所も変わることもあるので、対で考えることが多くなるのではないでしょうか。
 例を挙げるとこのようになります。

 農業経営者の方からすると、そもそも「一つの農場だけなので転勤はない」など必要がないとなるかもしれません。そうだとしても、転勤・異動がないなら、その旨「変更なし」と記載しなければなりません。

(まとめ)
 今回の法改正は、農業経営者からすると「なぜ、そこまで記載が必要?」との義務感を持たれるかもしれません。一方、労働者からすると、経営体からの提示の将来像は口約束だけでは困るとの懸念は払拭される効果はあります。
 考え方を変えて、この追加の項目の記載を契機として、経営体がその労働者に対して将来のキャリア・役割を考えさせる機会となり得るともいえます。また、労働者にそれを提示することで、労働者のモチベーションの維持や雇用の定着に貢献できるのではないでしょうか。特に、農業の場合は、仕事を覚えたあたりで独立することを視野に働く労働者もあり、経営体は、補充人員等の将来計画に係るので、積極的かつ詳細な記載と説明をすべきと考えます。
 ちなみに、契約後、想定外に規模を拡大(県外でも農業をする等)する場合、労働者にとっては契約外の業務になりますので、労働者は拒否できます(今は通勤20分、他県に通勤なら1時間超なら労働者は普通は困ります)。経営体としては、納得ある説明(及び今よりいい条件の提示)を労働者にすることとなります。なお、令和6年4月1日前の契約書(法改正前のもの)では、必要とされていないことなので、法的には問題ないことですが「説明すべきこと」と考えます。

2「労働基準法第15条(書面交付義務)」と「GAPの管理点3.3「労働契約の提示」」では記載項目の違いについて

 「JGAP農場用 管理点と適合基準」の管理点3.3「労働条件の提示」の適合基準の欄には5項目記載がありますが、労働基準法で定めるものより少ないです。下記の表のとおりです。労働者に対し、その5項目だけの明示だけなら、「GAPは○」、でも「労働基準法は×:法律違反」となります。そのため、労働基準法第15条(労働条件の明示)を遵守することを第一と考え、その結果GAPのこの管理点はクリアされると考えるべきでしょう。

労働基準法第15条及び施行規則第5条で定められている項目GAP基準管理点3.3 
「労働条件の提示」の項目 ※( )は項目番号
1 労働契約の期間(2)労働する期間
1の2 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(2)期間が限定されている場合には雇用契約の更新に関する事項
1の3 就業の場所及び従事すべき業務(1)従事する業務内容と就業する場所
2 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等(3)労働する時間、休憩時間、休日   
3 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払の時期(4)賃金とその支払方法及び支払時期
4 退職に関すること(5)退職に関する事項(雇用の解除に関する権利、解雇の条件)
5 退職手当
6 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)及び賞与等 
7 労働者に負担させるべき食費、作業用品等
8 安全及び衛生
9 職業訓練
10 災害補償及び業務外の傷病扶助、休職
11 表彰及び制裁

※パートタイム・有期雇用労働法では、「昇給」「退職手当」「賞与」の「有無」の記載も必要です(「無」なら「無」と書くということ)。
2については、①所定外労働の時間の有無②休暇等がGAPにはありません。
3については、賃金の決定(月給か時給か等)、計算方法(欠勤等の減額の有無等)がGAPの場合、あいまいです。
5から12についても、経営体で定まっているならば、明示しなければなりません。

(あとがき)
 ご覧になっていただきありがとうございました。2回に分けて「労働条件の明示の義務」について、その趣旨と目的について、私なりの考えを加えて説明をしました。わかりやすい説明を第一に、本来は、詳細な説明すべき必要な個所が多数ありますが、省略させていただきました。今回の労働基準法の施行規則等変更は、経営体からすると義務感を抱くかもしれませんが、労使間の労働問題を抑制するために必要な措置と思います。2回のコラムをご覧になって、よりよい労働環境を作ることの契機になっていただければ幸いです。

(参考)厚生労働省 Webサイト
令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます
・(パンフレット)2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?

連載コラム(2回)

第1回(2024年5月27日):陥りがちな労働条件通知の間違いを直す!~労働条件の明示義務とその方法~

第2回(2024年6月末):陥りがちな労働条件通知の間違いを直す! ~令和6年4月法改正による追加項目とそのポイント~

無料セミナー詳細

・日時:2024年7月24日(水) 15:30 ~17:30 
・会場:オンライン開催(Zoom)(申込後「URL」をお送りいたします)
・講師:大滝昇(ノボル社会保険労務士・行政書士事務所 代表)
・参加費:無料
・参加条件:特になし
・主催:GAP・ITサポート合同会社

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