【労務管理】第1回(2回連載)陥りがちな労働条件通知の間違いを直す!~労働条件の明示義務とその方法~

 GAPの取組みは、一言で説明できないほど多くの取組みが入っています。そこで、GAP・ITサポートでは2024年より各分野の専門家の方々とコラボして、コラム連載と無料セミナーを企画することにいたしました。第2回の企画は「労務管理」です。「農業労働者の雇入の際の留意点 ~労働条件の明示義務とその方法~」と題して、ノボル社会保険労務士・行政書士事務所の代表 大滝昇様に、2回の連載コラムと2024年7月に無料セミナーを企画しています。


執筆者・講師:大滝昇
ノボル社会保険労務士・行政書士事務所  代表

北海道在住の社会保険労務士及び行政書士。大学卒業後、流通業、商工会議所、大手の社会保険労務士事務所、地元自治体で勤務後、開業。農業以外に労務管理が少し難しいと言われている「運送事業」「障害者の就労支援事業」「外国人の雇用:技能実習生等」の分野の業務の問合せが多く、北海道内の全域を中心に仕事をしています。
申請取次行政書士、日本政策金融公庫農業経営アドバイザー、GAP(JGAP畜産、ASIANGAP青果物)指導員

はじめに

 北海道で2005年から社会保険労務士(「人事」に関するサポート)と行政書士(「国・自治体への許可・届出等書類」に関するサポート)をしております。事務所のある札幌から車で4時間、5時間かかる遠方(オホーツク辺り)の仕事も拒まず続けていたところ、外国人の在留資格に少し詳しいこともあって農業の経営者からの依頼を受けることが増えていきました。
 その中で、家畜・畜産物GAPが開始された2017年に、申請をしたい酪農家さんからの問合せが私のGAPとの関わり合いの始まりで、その際は「人」に関する管理点番号3、4及び9の助言だけでした。その後、農業経営者さんと少しでも同じ目線で話ができたらと、農産物と家畜・畜産物の指導員資格を取得しました。ただ、今でも労働関係の専門家である社会保険労務士という立ち位置です。
 私がこの度「農業労働者の雇入の際の留意点」にて、皆様へ伝えたい理由は、労働者を雇入れの際は契約から始まるということをつい軽視している経営者が多く、そういった方には口約束だけの曖昧な契約のままなら、後々、トラブルに至る懸念があることを認識していただきたいと思っているからです。
 労働者を雇う際のルール(適正な時期に書面で適正な内容を明示する)は、労働基準法 第15条で定まっていますが、今年法改正もあり、それに関する案内も含めいいタイミングと考えました。少し紙面を使うので、2回に分け、今回は概要を記載しました。次回は法改正の変更等の内容の説明をします。これから人を雇う予定である方は、確認のつもりでご覧いただければ幸いです。

労働条件の書面交付の必要性

 経営者の実感としては、口約束で一応決めておいて、いずれ労働者の働きぶりを見て賃金等を決定してから、契約書を用意したいと思っているかもしれませんが、時間拘束と賃金の支払いが前提とすれば、初日から原則「雇用契約」となります。
 その契約内容について、経営者と労働者で相違があれば問題になりがちです。口約束の曖昧な契約では完全に両者が合意することは難しく、両者(雇う人:経営者、雇われる人:労働者)の一方又は双方から、実際の労働条件に差があれば「話が違う」となり、早期の契約解除や争いごとに至る懸念もあります。経営者にとっても、仕事の予定に支障がきたす懸念は排除しなければなりません。したがって、適切な時期に書面(以下「労働条件通知書」と記載します。)にて労働契約を締結する必要があります。
 そこで、何を決めたらよいのか迷いが出ると思いますので、労働基準法の定める項目にそって決めていくのが法令順守の観点、およびトラブル予防策としての経営の観点から必要と考えるべきでしょう。この書面はJGAP2022管理点3.3のエビデンスそのものになります。なお、労働者が労働条件通知書の契約内容を納得して受け取ったかどうかはわかりません。そのため、通知書の内容を熟読してから受け取ってもらうこと、その際、用意した控えに受領の署名をもらうことが肝心です。

労働条件通知書の概要と実務上の注意点

(契約締結の時期)
 通常、契約はその締結後にその内容にて業務を開始しますので、前日までにすべきですが、事情がありできなければ、当日の現場での労働開始前に、伝達事項や雇入の際の安全教育などの時間に労働条件通知書を交付し受領してもらう。労働条件通知書は、ひな形を一度作成しておくと、別の新たな労働者の募集や有期契約の更新の際にも、アレンジして再利用が可能となるでしょう。
(明示の方法)
 「書面」=「紙:原本」だけでなく、労働者が希望した場合は、Eメール、SNSメッセージ等により明示することができますが、出力して書面を作成できるものに限られます。つまり明示とは書面を渡すということです。
(記載すべき項目)
 労働基準法の施行規則第5条第1項にて定められています。
 次の各号は一つでも欠けていると、労働基準法で定めている「完全」な労働条件通知書にはなりません。言い換えると、「完全」でないものは残念ながら法的に満たされていない労働条件通知書となります。労働基準法違反となり罰則や是正等の指導の対象となりますので、労働者を雇い契約書等を交付している経営者で、GAPの新規申請や更新等を考えている方は、JGAPの管理点3.3「労働条件の提示」の項目と内容が重なりますので、点検をお勧めします。なお、項目の欠けている労働条件通知書であっても、すでに記載されている項目は、有効です。

 下記1から6の各号の(  )は記載すべき事項例
 ・斜体は、JGAP2022 管理点3.3「労働条件の提示」の項目です。
 ・※は令和6年4月1日から労働基準法の施行規則等の改正による追加項目です。
 1 労働契約の期間
  (無期または有期なのか等)
 2 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
  (期間の上限回数※、更新しない場合の理由等)
 3 就業の場所及び従事すべき業務
  (具体的な場所等、今後の異動の予定等※)
 4 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等
  (農業であっても記載は必要、所定時間外労働の有無、年次有給休暇等)
 5 賃金
  (月給、日給、時給なのか、手当の有無、賃金計算期間、賃金支払日等)
 6 退職
  (定年年齢、退職の際のルール:何日前に通知するか等)

 ・次の内容は、すでに事業所内で定めを設けている場合は、明示しなければなりません。
 7 退職手当
 8 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)及び賞与等 
 9 労働者に負担させるべき食費、作業用品等
 10 安全及び衛生
 11 職業訓練
 12 災害補償及び業務外の傷病扶助
 13 表彰及び制裁
 14 休職 

(注意点)
(1)各項目それぞれが労働契約の一部です。「賞与はいずれ払ってあげたい。」などの気持ちがあっても、具体的な支払いの確証がなければ記載できません。
(2)賃金などの労働条件が実際と違い下回っている場合は、労働者は契約を即時に解除することができ、経営者は責任を問われることになります。
(3)労働基準法等で定まっている基準に達しない労働条件は、その部分については無効になります。この場合、同法の基準が労働条件になります。(同法第13条)
(4)ひな型は、厚生労働省HPから令和6年4月の法改正に対応した労働条件通知書でダウンロード可能です。ただ、個別の事業所の実態に合わせ、加除が必要です。
  →厚生労働省 主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法関係主要様式)
(5)経営者、労働者とも契約内容を遵守することは当然のことですが、労働条件通知書に記載のない次の事項も義務であると認識してください。
 ①職場の安全衛生の維持
 ②一定の条件での社会保険等の加入
 ③各労働者の個人情報等の漏洩防止
 ④労働災害の補償
 ⑤合理的な理由のない解雇などの経営者の権利の乱用の禁止など。

職場の秩序維持にも有効

 経営者の法令遵守に関する話が中心でした。義務感をお持ちになったかもしれません。ただ、視点を変えると、設備投資と違いお金のかけずに、この点に関しては労働基準法を遵守することができ契約内容が明確になるので「労働条件通知書を作成・整備しないと『もったいない』」と考えるべきでしょう。
 また、上記の項目以外に会社の慣習ルール(禁煙、情報漏洩、マナーなど)を加え「労働契約(服務)書兼労働条件通知書」とすることで、経営者及び労働者全員が働きやすい職場環境を作るために有効なものとなりえます。

次回は、今回の内容の発展的な内容にしたいと考えております。
1 「労働基準法第15条(書面交付義務)」と「GAPの管理点3.3「労働契約の提示」」では記載項目の違いについて
2 労働基準法第15条で定めている記載項目の変更(追加)について

無料セミナー詳細

・日時:2024年7月24日(水) 15:30 ~17:30 
・会場:オンライン開催(Zoom)(申込後「URL」をお送りいたします)
・講師:大滝昇(ノボル社会保険労務士・行政書士事務所 代表)
・参加費:無料
・参加条件:特になし
・主催:GAP・ITサポート合同会社

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